第3回:全国の登録事例② — 中部・近畿・中国・四国・九州エリア
地域の風土と庭園文化が融合する、個性豊かな“みどりの観光資源”たち
ガーデンツーリズム登録制度では、日本各地の庭園や景観スポットが「テーマ性」や「広域連携性」をもとに登録されています。
今回は、中部から九州までの事例をご紹介します。
それぞれの地域が持つ歴史・気候・文化と結びついた“ガーデン資源”の魅力と、観光への活用の工夫をご覧ください。
■ 中部エリア — 山と里の共生が生んだガーデン資源
◉ 飛騨・美濃ガーデン街道(岐阜県)
豊かな山林と伝統文化の残る岐阜県では、「飛騨・美濃ガーデン街道」としての取り組みが進んでいます。
高山市の「飛騨高山テディベアエコガーデン」や、美濃加茂市の「ぎふ清流里山公園」など、自然景観と人の手が調和した庭園が点在し、地域の里山文化や木工芸との連携を深めています。
◉ 富山の薬草園と回遊式庭園(富山県)
“くすりの富山”として知られる富山では、薬草や漢方にまつわる庭園文化が発展しています。
「富山薬用植物園」では植物と健康、そして庭の癒し効果をテーマに、見学・体験型のガーデン観光を展開。
近隣の「水墨美術館庭園」などと合わせ、文化資源との融合も進んでいます。
■ 近畿エリア — 歴史ある都市景観と庭園の融合
◉ 京都・滋賀 庭園文化と寺社景観(京都府・滋賀県)
歴史都市・京都とその周辺では、世界遺産を含む寺社仏閣の庭園が観光資源として高い評価を得ています。
「無鄰菴」「大徳寺」「修学院離宮」など、名だたる日本庭園の保存活用と合わせ、滋賀の「旧竹林院庭園」や「日吉大社」など比叡山を軸とした広域連携も試みられています。
◉ ならまち庭園巡りと町家文化(奈良県)
奈良市中心部の「ならまち」では、町家と庭を活かした観光が推進中。
古民家の中庭や、薬草・花の植栽が施された空間が点在し、歩きながら味わう“都市の中の庭園文化”が体験できます。宿泊や食、歴史学習と結びついた観光メニューが好評です。
■ 中国・四国エリア — 自然との調和を大切にした庭づくり
◉ 足立美術館庭園と山陰の名園群(島根県)
世界的な日本庭園ランキングで高評価を得る「足立美術館庭園」を中心に、松江・安来エリアでは「由志園」「月照寺庭園」など、格式ある日本庭園が点在します。
美術館・温泉・茶文化と結びつけた広域ガーデン観光として、外国人旅行者からも注目されています。
◉ 四国・庭園めぐり街道(愛媛県・香川県など)
四国では、「栗林公園(香川)」「南楽園(愛媛)」「西条西山興隆寺庭園」などを結ぶ、瀬戸内の温暖な気候を生かした庭園ルートが形成されつつあります。
愛媛県東温市の里山風景や、砥部焼と結びついた植栽文化も注目されており、“暮らしと庭”の融合が見どころとなっています。
■ 九州エリア — 気候を活かした色彩豊かな植栽と暮らしの庭
◉ 九州フラワーロード(福岡県・熊本県・宮崎県など)
温暖な気候と広い土地を活かし、「くじゅう花公園(大分)」「フラワーパークかごしま」「宮崎フローランテ」など、四季折々の草花を前面に押し出した“花の楽園”が整備されています。
農業体験やワーケーションとの親和性も高く、地域滞在型の観光に貢献しています。
◉ 武家屋敷と庭園のまち・鹿児島(鹿児島県)
鹿児島市の「仙巌園」をはじめ、島津家の庭園文化を今に伝えるエリア。
桜島と海を借景とするダイナミックな構成は、まさに“地形を活かしたガーデン”の代表例。隣接する工芸・歴史文化施設との連携も強く、観光資源としての磨き上げが進んでいます。
地域文化と結びつく“庭の観光資源化”の可能性
中部から九州にかけての登録事例では、ただの鑑賞型ガーデンではなく、**“文化と暮らしの延長線上にある庭”**が多く見られました。
地元の自然素材や生活文化、伝統産業とつながりながら、庭園が観光・教育・地域づくりの核として機能しているのが特徴です。
ガーデンツーリズム登録制度は、そうした地域の「らしさ」や「誇り」を活かしつつ、持続可能な観光とまちづくりの接点を作る制度でもあります。
次回は、こうした登録によって得られる「制度の恩恵と期待される効果」をテーマに、観光客数の変化など掘り下げてまいります。